宇治抹茶って、なんだろう。

宇治抹茶って、なんだろう。

はじめに

抹茶味のお菓子が、こんなに街にあふれるようになったのはいつ頃からでしょう。コンビニのスイーツコーナーに行けば抹茶プリン、抹茶ラテ、抹茶クッキー。ファストフードの期間限定メニューにも抹茶は登場するし、外国からの観光客が「MATCHA」と書かれた商品を手に取って嬉しそうにしている場面も、もはや珍しくありません。

抹茶は今や、日本を代表するフレーバーのひとつになりました。


でも、ちょっと待ってほしいのです。「フレーバー」という言葉、さらっと使ってしまいましたが、抹茶って本当にそれだけのものでしょうか。バニラ、ストロベリー、チョコレート、そして抹茶と横に並べてしまうのは、少しもったいない気がします。

私は子どもの頃から、お茶が身近にある環境で育ちました。父がお茶の仕事をしていたので、ほうじ茶の香りも、急須や茶碗、茶筅が身近にあるのが、日常の一部でした。だから正直なところ、茶游堂で仕事を始めるまで「抹茶って何?」と真剣に考えたことがありませんでした。

あって当たり前のもの。知っていて当然のもの。そんな感覚でずっと過ごしてきたのです。

でも先日、私はこの茶游堂ECサイトを作るにあたり、その道のプロの先輩に相談していたときに、「抹茶ってそもそも何なん?」そう聞かれて考えてしまいました。

茶業に携わっていれば当たり前のこと、でもあらためて聞かれるとどこから説明したものか…。

この記事では、そんな「抹茶って結局なんなの?」という素朴な疑問から出発して、宇治抹茶の魅力をできるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。読み終わったとき、「ちょっと抹茶のこと、好きになったかも」と思ってもらえたら、それが一番うれしいです。

 

 

そもそも、お茶って何?

少し唐突ですが、緑茶と抹茶って、何が違うか説明できますか?私も回答に困りました。

「緑色のやつでしょ」と言われたら、まあそうなのですが、それだと両方緑色です。「粉末になっているのが抹茶」というのも正解に近いけれど、粉末の緑茶だって売っています。じゃあ何が違うのか。

この際、リニューアルサイト第一回目のブログでしっかりと書いて、読んでもらいたいと思います。


さて、まず大前提として、緑茶も抹茶も、紅茶も烏龍茶も、もとをたどれば全部同じ植物からできています。「チャノキ」という一種類の植物の葉が、どう育てられてどう加工されるかによって、まったく異なるお茶になっていくのです。

日本でよく飲まれている煎茶は、茶葉を蒸してから揉んで乾燥させたもの。あの細長い茶葉の形が特徴的です。お湯を注いでその成分を抽出して飲む、いわゆる「浸出液」を楽しむお茶といえます。

一方、抹茶はというと、飲み方からして根本的に違います。

抹茶は茶葉そのものを粉末にして、お湯に溶かして飲むもの。つまり、茶葉を丸ごと口にしているということになります。成分を「抽出」するのではなく、茶葉を「食べている」に近い感覚といえばわかりやすいでしょうか。

だから栄養素の摂取量も煎茶とはまったく違うし、旨味も苦味も、溶け出す量が段違いに多くなります。抹茶独特の濃厚なコクや、後からじわりとくる甘みのようなものは、そこから生まれています。

ちなみに、抹茶の原料になる茶葉には「碾茶(てんちゃ)」という特別な名前がついています。煎茶の原料とは育て方からして異なります。そのあたりは、後述するとして

緑茶・煎茶・抹茶の違いをひとことでまとめると、「同じ植物から生まれた、育て方も加工の仕方も飲み方もまったく異なるお茶」ということになります。どれが上等とかではなく、それぞれがそれぞれの形で、長い時間をかけて日本人に愛されてきた。そのことを、まず頭の片隅に置いておいてもらえると嬉しいです。

 

抹茶はどうやってできるのか?

抹茶がお茶を粉にしたものだとわかったところで、次の疑問が出てくると思います。「じゃあ、どんなお茶を粉にするの?」というところです。

実はここが、抹茶を語る上でとても大切なポイントになります。

お茶の葉を乾燥させて粉末にすれば抹茶になるかというと、そうではありません。抹茶には抹茶になるための、特別な育て方と加工の工程があります。順を追って見ていきましょう。

 

遮光栽培という育て方

抹茶の原料となる碾茶(てんちゃ)を育てるとき、茶農家さんがまず行うのが「遮光(しゃこう)」という作業です。

茶葉を摘み取る前の一定期間、茶園全体を覆いで覆って、日光を遮ります。使われる覆いは産地や農家さんによって異なりますが、昔ながらのよしずや藁を使うところもあれば、現代では遮光ネットを使うところも多くなっています。

なぜわざわざ日光を遮るのか?

植物は日光を浴びることで光合成を行い、養分をつくります。お茶の場合、その過程でカテキンという成分が生成されます。カテキンはお茶の渋みのもとになる成分です。日光を遮ることで光合成が抑えられ、カテキンの生成が少なくなります。その代わりに、旨味成分であるテアニンが葉の中に蓄積されていく。

つまり遮光栽培は、渋みを抑えて旨味を引き出すための工夫なのです。

覆いをかけた茶園の中は独特の雰囲気があります。光が遮られた薄暗い空間で、茶葉は鮮やかな濃緑色に育っていきます。遮光によって葉緑素(クロロフィル)が増えるためで、これが抹茶の鮮やかな緑色のもとにもなっています。

 

蒸して、乾かして、碾茶に

摘み取った茶葉は、まず蒸されます。これは酸化酵素の働きを止めるためで、煎茶と同じ工程です。ここで素早く蒸すことで、茶葉の鮮やかな緑色が保たれます。

蒸したあとは乾燥させますが、煎茶と大きく違うのは「揉まない」ということ。煎茶はあの細長い形をつくるために念入りに揉まれますが、碾茶はほぐしながら熱風で乾燥させるだけです。揉まずに乾燥させることで、葉は砕けた木の葉のような形になります。

この状態のものが碾茶です。見た目は地味で、パッと見ただけでは「これが抹茶の原料?」と思うかもしれません。でも口に含むと、深い旨味と穏やかな香りが広がります。

 

石臼でゆっくり挽く

碾茶を粉にする工程が、抹茶づくりの最後の工程です。そしてここにも、大切なこだわりがあります。

抹茶を粉にするときに使われる代表的な道具が「石臼(いしうす)」です。上下2枚の石でできた臼の間に碾茶を少しずつ入れ、ゆっくりと回転させながら粉砕していきます。その速度は1分間に数十回転ほどで、かなりゆっくりです。

なぜそんなにゆっくりなのかというと、摩擦熱を防ぐためです。茶葉は熱に弱く、高温にさらされると香りや風味が損なわれてしまいます。石臼でゆっくりと挽くことで、熱を発生させずに茶葉本来の風味を粉の中に閉じ込めることができます。

石臼で挽いた抹茶の粒子はとても細かく、なめらかな口当たりになります。1グラムの抹茶をつくるのに、石臼で1時間以上かかることもあるといいます。手間と時間がかかる分、風味と品質は格別です。

ちなみに現代では、石臼の代わりに「ボールミル」と呼ばれる機械を使って製粉する方法もあります。効率よく大量に粉砕できるため、お菓子の原料や業務用途では広く使われています。石臼挽きとボールミルのどちらが良い悪いというわけではなく、用途や目的に応じて使い分けられているのが実情です。

こうして見てみると、抹茶ひとつをとっても、遮光栽培から始まって石臼で挽き終わるまで、実に多くの工程と手間が積み重なっていることがわかります。あの鮮やかな緑色の粉末の中に、茶農家さんや茶師さんの仕事がぎゅっと詰まっているのです。

 

「宇治抹茶」って、何が違う?

抹茶のつくり方がわかってきたところで、いよいよ本題に入ります。

「抹茶」と「宇治抹茶」って、何が違うのでしょう。スーパーやコンビニで売っているお菓子のパッケージを見ると、「抹茶使用」と書いてあるものもあれば、「宇治抹茶使用」と書いてあるものもあります。値段も少し違ったりする。でも何がどう違うのか、説明できる人は意外と少ないのではないでしょうか。


宇治ってどこにある?

まず地理的なお話。

宇治市は京都府の南部に位置する市で、京都市街からは電車で20分ほどの距離にあります。世界遺産の平等院鳳凰堂や、源氏物語ゆかりの地としても知られている、歴史のある街です。


ちなみに私たち茶游堂がお店を構えているのは、宇治市内でも、観光客で賑わう宇治橋周辺のエリアから少し北に上がった東宇治と呼ばれるところで六地蔵というところです。
観光地としての顔はありませんが、地元の人たちの日常が息づく、生活感のある町です。

宇治といえば宇治橋や平等院のあたりを思い浮かべる方が多いと思いますが、お茶の産地としての宇治はもっと広く、六地蔵のあたりも昔からお茶と深く関わりのある土地です。

この宇治の地が、日本有数のお茶の産地であることはご存知でしょうか。宇治茶の歴史は古く、鎌倉時代にまでさかのぼります。良質な茶葉が育つ気候と地形に恵まれ、長い年月をかけて茶の産地としての技術と文化が育まれてきました。

宇治川沿いの霧が多い地形は、茶葉の栽培に適した適度な湿度をもたらします。昼夜の寒暖差も、茶葉の旨味成分を育てるのに一役買っています。自然条件と長年の栽培技術が重なって、宇治は「お茶といえば宇治」と言われるほどの産地になっていきました。

 

山のお茶と川のお茶、そして合組という技

宇治の茶産地としての強みは、地形の多様さにもあります。

宇治とその周辺には、山間の茶園と、川沿いの低地に広がる茶園の両方が存在します。一見すると同じお茶でも、育つ場所によって味わいの個性はずいぶん異なります。古来より「山のお茶と川のお茶を組み合わせると、バランスの良いお茶になる」と言い伝えられてきたほどです。

山の茶園で育ったお茶は、香りが高く甘みがあるのが特徴です。山間地は昼夜の寒暖差が大きく、茶葉の成長がゆっくりと進みます。その分、香り成分がじっくりと蓄積され、清々しく奥行きのある香りが生まれます。

一方、川沿いの茶園で育ったお茶は、旨味が豊かなのが特徴です。川の近くは湿度が保たれやすく、霧も発生しやすい。この霧が茶葉に適度な遮光効果をもたらし、旨味成分であるテアニンを豊かに育てます。

香りは山から、旨味は川から。この二つの個性を持つ茶葉を、茶師が絶妙な配合でブレンドする。これが「合組(ごうぐみ)」と呼ばれる技術です。気候や収穫時期によって茶葉の出来は毎年変わります。それでも一定の品質と味わいを保ち続けるために、茶師は自らの舌と経験を頼りに、その年ごとの最良の組み合わせを見極めていきます。

宇治抹茶が長年にわたって「本物」として評価されてきた背景には、この土地の自然条件と、それを活かしてきた茶師たちの技の積み重ねがあります。山と川、地形と気候、そして人の技。そのすべてが重なるところに、宇治抹茶の美味しさの正体があるのかもしれません。

 

「宇治抹茶」という言葉の重み

宇治がお茶の名産地だということはわかりました。では、宇治抹茶とは単純に「宇治で作られた抹茶」のことなのでしょうか。

実はここが、少し複雑なところです。

「宇治抹茶」という言葉には、厳密な定義があります。宇治茶の組合などが定める基準では、京都・奈良・滋賀・三重といった特定の産地で栽培された茶葉を使い、京都府内で加工したものが「宇治茶」と名乗れるとされています。さらに抹茶については、この宇治茶の基準を満たした碾茶を、京都府内で石臼などを用いて挽いたものを指します。

ただ正直なところ、市場に流通している「宇治抹茶使用」と書かれた商品のすべてが、この基準を厳密に満たしているかというと、そうとは限りません。食品表示のルールは複雑で、少量の宇治産茶葉を混ぜるだけで「宇治抹茶使用」と表示できてしまうケースも、まったくないとは言い切れない現状があります。

これはなにも悪意があるということではなく、表示基準の解釈やコスト面の問題が絡み合った、業界全体の難しいテーマでもあります。消費者の立場からすると、「宇治抹茶」という言葉を見たとき、その言葉の裏側にどれだけの宇治産茶葉が入っているのかは、パッケージだけでは判断しにくいのが実情です。

だからといって、「宇治抹茶と書いてあるものはすべて怪しい」というわけでもありません。誠実につくっているメーカーやお茶屋さんはたくさんあります。ただ、消費者としてこういったことを少し頭に入れておくことで、商品を選ぶときの目が少し変わってくるかもしれません。

 

本物の宇治抹茶が持つ味わい

では、きちんとした宇治抹茶はどんな味がするのでしょう。

一番の特徴は、旨味の深さです。遮光栽培によって蓄積されたテアニンが、あの独特のまろやかな旨味をつくり出しています。飲んだ瞬間に感じる濃厚さと、後からじわりと続く甘み。苦みもありますが、嫌な渋みではなく、旨味と一緒に溶け合うような心地よい苦みです。

香りも宇治抹茶の大切な個性のひとつです。石臼でゆっくり挽かれた抹茶は、青々とした清々しい香りの中に、どこかほっとするような温かみがあります。この香りは「覆い香(おおいか)」とも呼ばれ、遮光栽培を経た茶葉特有のものです。

色については、鮮やかな緑色が品質の高さを示すひとつの目安になります。茶葉が新鮮なうちに丁寧に加工されたものほど、生き生きとした緑色を保っています。時間が経ったり、保存状態が悪かったりすると、色はくすんで黄みがかってきます。

旨味、苦味、香り、色。この四つが揃ったとき、宇治抹茶は宇治抹茶らしくなります。どれひとつ欠けても、別のものになってしまう。シンプルなようで、実は非常に繊細なものなのです。

 

抹茶と宇治抹茶、どう選べばいい?

「じゃあ、宇治抹茶と書いてあるものを選べばいいの?」と思った方もいるかもしれません。

ひとつの目安としては、産地や製法にこだわりを持つお茶屋さんやメーカーのものを選ぶことです。パッケージに茶葉の産地や製法について丁寧な説明がされているものは、それだけ品質に自信を持っているということでもあります。

値段も、ある程度の目安にはなります。本物の宇治抹茶は、栽培から加工まで手間とコストがかかっています。極端に安いものには、それなりの理由があることが多いです。

ただ、すべてのシーンで最高品質の宇治抹茶が必要かというと、そうでもありません。日常的に気軽に楽しむお菓子と、特別な日のお茶とでは、求めるものが違って当然です。大切なのは、自分が何を求めているのかを少し意識しながら選ぶこと。そのための知識として、今日お話ししたことを覚えておいてもらえたら嬉しいです。

 

 

抹茶の美味しさの正体

抹茶には独特の味わいがあります。あの濃厚なコク、口の中に広がる旨味、そしてほろりとした苦み。好きな人はとことん好きで、苦手な人は苦手という、個性のはっきりしたお茶です。でもその美味しさが具体的にどこから来ているのかを知ると、また少し違った楽しみ方ができるようになります。

 

旨味の正体はテアニン

抹茶を飲んだときに感じる、あのまろやかでじんわりとした旨味。その正体は「テアニン」というアミノ酸です。

テアニンはお茶特有の成分で、旨味だけでなく、リラックス効果をもたらすことでも知られています。お茶を飲むとほっとする感じがするのは、気のせいではなくテアニンの働きによるものです。

そしてこのテアニン、実は先ほどお話しした遮光栽培と深い関係があります。茶葉は日光を浴びると、テアニンをカテキン(渋み成分)に変換していきます。遮光することで日光を遮り、この変換を抑えることでテアニンが葉の中にたっぷりと蓄積される。だから抹茶は、煎茶に比べて旨味が格段に豊かなのです。

煎茶でもテアニンは含まれていますが、遮光栽培を経た碾茶から作られる抹茶のテアニン量は別格です。さらに抹茶は茶葉を丸ごと粉末にして飲むので、お湯に溶け出す成分だけを飲む煎茶と比べて、テアニンを余すことなく摂取できます。

 

苦みの正体はカテキン

抹茶の苦みのもとはカテキンです。カテキンは緑茶ポリフェノールとも呼ばれ、抗酸化作用など様々な健康効果が注目されている成分でもあります。

遮光栽培によってカテキンの生成は抑えられているとはいえ、抹茶にはやはりカテキンが含まれています。この苦みが抹茶の個性のひとつであり、旨味と絶妙に絡み合うことで、あの複雑で深みのある味わいを生み出しています。

苦みが苦手という方もいますが、質の高い抹茶の苦みは嫌な渋みとは少し違います。旨味がしっかりあるからこそ、苦みが際立ちすぎずに全体がまとまる。そのバランスが、抹茶の美味しさの核心にあるといえます。

 

香りは遮光栽培が生む

抹茶の香りにも、遮光栽培が大きく影響しています。

覆いをかけて育てた茶葉には「覆い香(おおいか)」と呼ばれる独特の香りが生まれます。青々とした草の香りの奥に、どこかほっとするような甘い香りが混じった、あの抹茶らしい香りです。この覆い香は遮光栽培をしていない茶葉には出ない、碾茶ならではのものです。

石臼でゆっくりと挽くことも、香りの保全に一役買っています。熱をかけずにゆっくり粉砕することで、香り成分が飛んでしまうのを防いでいます。だから石臼挽きの抹茶を缶や袋から取り出した瞬間に漂うあの香りは、丁寧な工程の積み重ねから生まれているのです。

 

色は鮮度と品質のバロメーター

抹茶といえば、あの鮮やかな緑色も大きな魅力のひとつです。

この緑色のもとは葉緑素、つまりクロロフィルです。遮光栽培によって茶葉のクロロフィルが増加するため、碾茶は一般の茶葉に比べて色が濃く鮮やかになります。

ただ、クロロフィルは光や熱、酸化に弱い成分でもあります。時間が経ったり保存状態が悪かったりすると、あの鮮やかな緑色は少しずつ黄みがかってくすんでいきます。だから抹茶の色は、鮮度と品質を見極めるひとつの目安になります。開封後は冷蔵庫で保存して早めに使い切る、というのはそういった理由からです。

旨味、苦み、香り、色。この四つの要素がそれぞれの持ち味を発揮しながら重なり合うとき、抹茶は抹茶らしくなります。どれかひとつが突出しても、どれかが極端に欠けても、抹茶の美味しさは成立しない。シンプルに見えて、実は非常に繊細な飲み物なのです。

 

抹茶スイーツと抹茶の関係

抹茶の美味しさの正体がわかったところで、次は抹茶スイーツの話をしましょう。

街で見かける抹茶スイーツには、実にさまざまなものがあります。抹茶アイス、抹茶ケーキ、抹茶チョコレート、抹茶クッキー。伊藤久右衛門さんの抹茶パフェは行列ができることで有名ですし、キットカット抹茶は日本土産の定番として外国の方にも大人気です。抹茶スイーツは今や、日本のお菓子文化のひとつの柱になっています。

でも、ここでひとつ気になることがあります。

お菓子に使われている抹茶は、お茶として飲む抹茶と同じものなのでしょうか。

 

お菓子用の抹茶と飲用の抹茶

結論からいうと、同じ抹茶でも用途によって使い分けられていることが多いです。

飲用の抹茶、つまりお茶として点てて飲むための抹茶は、香りや旨味が最大限に活きるよう、高品質な茶葉を石臼で丁寧に挽いたものが使われます。

一方、お菓子の原料として使われる抹茶は、砂糖やバター、小麦粉などほかの素材と合わさることを前提につくられています。加熱される工程もあるため、繊細な香りよりも風味の強さや色のきれいさが重視されることがあります。また大量に使うことも多いため、コストとのバランスも考慮されます。

どちらが良い悪いということではなく、それぞれの用途に適した抹茶があるということです。

 

鮮やかすぎる緑色には理由がある

抹茶スイーツを選ぶとき、ひとつ気にしてみてほしいことがあります。それは「色」です。

本物の抹茶を使ったお菓子は、自然な深みのある緑色をしています。鮮やかではありますが、どこか落ち着いた色合いです。一方、見たことがないくらい蛍光色に近い緑色のお菓子は、着色料が使われている可能性があります。

抹茶の緑色は繊細で、加熱や時間の経過によって色が褪せやすいという性質があります。そのため、見た目の鮮やかさを保つために着色料を加えているケースが、市場には少なくありません。着色料を使うこと自体は食品衛生上問題のないことですが、それが「抹茶の色」なのか「着色料の色」なのかは、消費者として知っておいて損はないことだと思います。

原材料表示を見る習慣をつけると、少しずつ見えてくるものがあります。

 

抹茶スイーツが広まったこと、それ自体は素晴らしい

少し厳しいことも書きましたが、抹茶スイーツが世界中に広まったこと自体は、本当に喜ばしいことだと思っています。

キットカット抹茶が日本土産の定番になり、抹茶ラテが世界中のカフェのメニューに並ぶようになった。そのことで「抹茶って何?」「日本のお茶って面白い」と興味を持つ人が世界中に増えました。入り口はどこであっても、お茶の文化に触れるきっかけになるなら、それはとても大切なことです。

抹茶スイーツは、お茶という文化を次の世代に、そして世界に届けるための橋渡しでもあります。その橋を渡った先に、本物の宇治抹茶の世界が広がっている。そんなふうに思っています

 

 

茶游堂と宇治抹茶

ここまで、抹茶のこと、宇治抹茶のこと、抹茶スイーツのことをお話ししてきました。最後に、私たち茶游堂が宇治抹茶とどのように向き合って商品をつくっているかを、少しだけお話しさせてください。

 

お茶屋が抹茶スイーツをつくり始めた頃

茶游堂の創業は平成元年、1989年のことです。創業者である林屋和成が「食べるお茶」というコンセプトを掲げ、お茶を使ったスイーツづくりに取り組み始めました。

今でこそ抹茶スイーツは当たり前のように街に溢れていますが、当時はまったく違う時代でした。お茶屋がスイーツをつくるという発想自体、業界の中では笑われるようなことだったといいます。お茶はお茶として売るもの。それが当時の常識でした。

そんな時代に、なぜ抹茶スイーツだったのか。背景にあったのは、お茶離れへの危機感です。日本の食卓からお茶が遠ざかっていくのを目の当たりにしながら、お茶の美味しさを知ってもらうための入り口として、スイーツという形を選んだのです。難しい作法も、特別な道具も必要ない。食べるだけで宇治抹茶の味わいに触れてもらえる。そのシンプルな考え方が、茶游堂のスイーツづくりの出発点にあります。

流行に乗ったのではなく、流行よりずっと前から、ひとつのことを続けてきた。それが茶游堂という店の来歴です。

 

着色料も香料も、使わない理由

茶游堂の商品には、合成着色料も合成香料も使っていません。

理由はシンプルです。宇治抹茶そのものに、色も香りも十分に備わっているからです。わざわざ足す必要がない。むしろ足してしまうと、宇治抹茶本来の姿が見えにくくなってしまう。

先ほど、抹茶スイーツの色の話をしました。蛍光色に近い緑色は着色料によるものである可能性がある、と。茶游堂の商品の緑色は、宇治抹茶そのものの色です。製品によっては自然由来の着色料を使うこともありますが、合成のものには頼りません。派手さよりも、素材の誠実さを選んでいます。

香りも同じです。石臼でゆっくりと挽かれた宇治抹茶の覆い香は、合成香料では再現できないものです。その香りをそのまま商品に閉じ込めることが、茶游堂のこだわりのひとつになっています。

 

石臼挽きとボールミル、使い分けの考え方

抹茶の製粉方法として、石臼挽きとボールミルがあることは先ほどお話ししました。茶游堂では、この二つを用途に応じて使い分けています。

お茶として点てて飲むような、抹茶そのものの風味を最大限に楽しんでほしい場面では石臼挽きを。一方、ほかの素材と合わさるお菓子の原料としては、目的に合った製法を選んでいます。どちらが上でどちらが下ということではなく、それぞれの用途に最も適した方法を選ぶ。そのことが、結果として商品の品質につながると考えています。

 

宇治抹茶と向き合うということ

お茶屋として宇治抹茶と向き合うとは、どういうことでしょう。

私たちが大切にしているのは、宇治抹茶という言葉を軽く使わないことです。産地や製法にしっかりとした根拠を持った上で、宇治抹茶という言葉を商品に使う。それは消費者への誠実さであり、長年この産地で積み上げられてきたお茶の文化への敬意でもあります。

抹茶スイーツの市場が大きくなるにつれて、「宇治抹茶使用」という言葉があちこちで使われるようになりました。その言葉の重みが薄れていくような気がすることも、正直あります。だからこそ、私たちはその言葉に責任を持ち続けたいと思っています。

美味しいスイーツをつくること。宇治抹茶の本当の味わいを伝えること。そしてスイーツを入り口として、お茶という文化に興味を持つ人を少しでも増やすこと。茶游堂のものづくりは、その三つが重なるところにあります。

 

 

おわりに

抹茶とは何か、宇治抹茶とは何か、その美味しさはどこから来るのか。長々とお付き合いいただきありがとうございました。

読む前と読んだ後で、抹茶に対する見方が少し変わっていたら嬉しいです。コンビニで抹茶スイーツを手に取るとき、カフェで抹茶ラテを注文するとき、あるいは誰かへのお土産を選ぶとき。頭の片隅にこの記事のことがあって、ちょっとだけ原材料を確認してみようかな、と思ってもらえたら十分です。

抹茶はフレーバーのひとつではありません。長い時間をかけて日本で育まれてきた、農業であり、文化であり、職人の仕事です。その奥行きを知れば知るほど、一杯のお抹茶や一切れの抹茶スイーツが、少し違って見えてくるはずです。

宇治抹茶のことをもっと知りたくなったら、ぜひ茶游堂のお店や商品に触れてみてください。スイーツを通じて、宇治抹茶の本来の味わいをお届けできたら、これ以上嬉しいことはありません。

お茶のこと、宇治のこと、季節のこと、いろんなことをこのブログでお話しできればと思っています。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

とりあえず、先日先輩に質問された答えとして、このブログを読んでもらおうと思います。

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